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新新新・学校保護者関係研究会 第12回半公開学習会「学校部活動と近隣トラブル」

2019年 3月 24日

第12回「半公開学習会」のお知らせ

小野田正利
(大阪大学大学院教授・新新新学校保護者関係研究会代表)

  • 日時:2019(平成31)年3月24日(日)午後1時20分~4時
  • 場所:大阪大学・人間科学部(吹田キャンパス) 51講義室
  • テーマ:「学校部活動と近隣トラブル」
  • 参加費:無料

【注意事項】

「学校保護者関係研究会」(小野田が科研費・基盤研究(A)17H01021の代表者として組織している科研研究会)が研究成果の社会貢献として実施している「第12回半公開学習会」は、今回は小野田が大会実行委員長を務める第2回日本部活動学会の公開シンポジウムとの抱き合わせで実施します。

このため学会参加ではなく無料の「半公開学習会」としてご出席される方は、

  1. 3月10日(日)までに、電子メールで小野田正利あてに、「第12回半公開学習会参加」との件名をつけて、まず申し込みいただき、
  2. 当日は5階入り口付近の受付でお名前を申し出てください

(そうしないと大会参加費2000円が必要になります)。先着順で50名までです。


【報告者】

  • 中間茂治(藍野高等学校教諭(運動部系部活動顧問))
  • 林直哉(長野松本深志高校教諭、生徒会・放送部顧問)
  • 柳原真由(慶應義塾大学1回生・「鼎談深志」の創始者)
  • 橋本典久(騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授)
  • コーディネータ:小野田正利

【企画の趣旨】

1.

学校部活動問題を考えるにあたって、相当に深刻で現実的な問題として「学校周辺住民からの苦情・クレームによる部活動への影響」という問題がある。地域性や競技種目によっていくぶんの違いがあるが、部活顧問たちが時として、この問題に大きな悩みを抱えていることは明確な事実である。「部活動は迷惑だというクレームで活動時間を縮小」「音をめぐる苦情で、窓を閉めて活動していたら生徒が熱中症に」「住民が生徒と口ゲンカを始めた」――この20年あまりの間に、都市部だけでなく全国各地で、学校と近隣住民との間に生じる摩擦が大きくなっている。

中学校や高校での運動部活動の実施をめぐっては、音と声そして校外での活動に関する苦情が中心である。「野球部の朝っぱらからのかけ声」「テニスの打球音」「体育館から響く音」「公道を使った大勢のランニング」「大きな道具を持ち込んでの車両空間の独占」などに対する苦情は昔からあったが、いまでは明確に被害行為として教育委員会や学校に対策を講じるよう要求が出される時代に入った。穏便におさめようとして、多くの学校は「内向き」指向に入り、微に入り細にわたる生徒への注意喚起と部活動時間の制限や活動範囲の縮小へと進む。すると生徒たちは「学校周辺の住民からの苦情で自分たちの活動がどうして制約されなければならないのか」とイラダチを募らせ不満が高まっていく。

2.

「子どものことだから大目に見る」という寛容性は一部では残っているが、他方で住民からは「我慢にも限界がある」と感じることも少なくない。環境基準や騒音防止条例では、工場から出る騒音も学校からの騒音も同じ扱いである。「子どもの発達・学習権の保障」と「隣人住居の平穏という人格権の保障」を、どうやって両立させていくことが可能なのだろうか。「公共的施設だから」「昔からここにあった」という理由や説得では収まりがつかなくなったいま、紛争やトラブルを少しでも緩和しながら、双方が「折り合い」をつけていくためには何が必要か。学校が、一般的に住民にとって望ましくないと考える公共的施設=「迷惑施設」あるいはNIMBY(ニンビー)(not in my backyard、私の裏庭には作らないで)にさせないために、どのような改善策を考案していくかが、必要かつ喫緊の課題となってきたことは明確である。

この場合に重要なポイントは、トラブル解決の主役は、学校の教職員ではなく当事者としての子ども(生徒)であること、学校も地域に住まう住民の一人として自覚できているかどうかである。別の言葉に置き換えれば「主体性」と「当事者性」ということになる。

3.

具体的な行動を起こしはじめた高校生たちがいる。長野県立松本深志高校では、学校から出る音のトラブルを、生徒たちが近隣住民(町内会)との話し合いの中で解決しはじめ、実績を積み重ねている。2016年秋に、一人の女子生徒が立ち上がり、周りの生徒に呼びかけて行動を起こし始め、直接に住民の人たちと話しながら妥協点をさぐる道を模索する。学校の教職員の了解をとりつけ、各町内会を訪問してアンケート調査をし、周辺の140軒の家を手分けし個別訪問して意見聴取を重ね続け、2回にわたって「高校から出る音」についての住民代表との意見交換会を開催にこぎつけた。この会合の場で、生徒たちが苦労し腐心し部活動をしている姿を、住民たちも「初めて知る」ことになった。印象的なのは、応援団が和太鼓をタオルとビニール袋で覆って消音に努めていることであった。「やっぱりノビノビと部活動をさせてあげなきゃいけない」という思いを持ち始め、他方で生徒たちも住民の目線に立って考えることの大事さに気づくことになる。

こうして2017年5月に、松本深志高校地域フォーラム「鼎談深志」が発足した。その設置要綱の冒頭は次のように謳う。《私たち松本深志高等学校、生徒、教職員、近隣五町会は、ともに協働し、松本深志高校を取り巻く地域コミュニティのよりよい関係を目指し、広範な対話と工夫を尽くして課題を解決するためにこの要綱を定める。》つまり、単に音の問題だけでなく、防災、災害準備を含め、学校と近隣住民に関わる課題の協議の場の創設である。これら一連の経緯をまとめた映像を同校の放送部が制作し、その作品「鼎談深志~私の新委員会創設物語」(8分間)は、NHKが主催する全国高校放送コンテストの第64回大会(2017年)の「テレビドキュメント部門」で優勝という快挙に輝いた。

4.

今回のシンポジウムは「学校部活動と周辺住民とのトラブル」に焦点をあてて、その現状と紛争解決の道筋を考える場としたい。柳原真由氏は、この当事者であり、林直哉氏は生徒会顧問として、この変化に富んだ経緯を静かに見守り、生徒たちの主体性を支え続けてきた教師である。橋本典久氏は、音をめぐるトラブルの専門家として、数々の事案の考察を重ねてきている。中間茂治氏は、屋外スポーツとして最も苦情の多い野球部や硬式テニス部の顧問を長く務め、地域住民との関係改善に配慮をしてきた経験を持つ。コーディネータは、保護者対応トラブルと同時に、学校の抱える近隣トラブルを科研費研究として追究し、『迷惑施設としての学校―近隣トラブル解決の処方箋』(時事通信社、2017年)の執筆者である小野田正利が務める。