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保護者の学校意識に関する調査報告書

2010年 5月 9日

イチャモン研究会の活動の一環として実施した調査結果の概要を公開いたします。この調査は、以下の要領で実施したもので、平成22年3月に公表しました。

4月22日の「読売新聞」朝刊、4月23日の「内外教育」4月26日の「日本教育新聞」1面で紹介されましたので、合わせてご覧いただければ幸いです。

(研究分担者 佐藤晴雄・日本大学教授)

1.調査対象

公立小学校及び中学校に在籍する児童生徒の保護者 2,380人(回収数 1,752人:回収率73.6%)。なお、対象校は有意抽出法による(佐藤との一定の関わりを有する学校)。学年は特に指定しなかった。

・対象校:

  • 小学校 : 東京都内公立小学校5校、神奈川県内公立小学校1校、千葉県内公立小学校1校(合計7校)
  • 中学校 : 東京都内公立中学校4校、神奈川県内公立中学校1校、新潟県内公立中学校1校(合計6校)
校種 実数 パーセント
小学校 925 52.8%
中学校 827 47.2%
合計 1752 100%

2.調査方法・調査・実施時期

(1)調査方法
留置法による自記式調査(学級担任を通して児童生徒に配布し、各家庭で保護者による回答を得た。また、個票は封筒厳封の上、提出を依頼した。)

(2)調査実施時期
 平成21(2009)年12月25日~平成22(2010)年1月31日

3.調査結果の概要

現在、保護者のクレームやイチャモンが注目され、社会問題化されているが、本調査からは21.5%の保護者が学校に苦情・要望を申し立てた経験があるという。この5人に1人という数字を見れば、それがマスコミの過度な報道だと切り捨てることができないであろう。 

さて、調査結果の概要として、主な数字をここに記しておきたい。まず、多くの保護者は意外にも学校との「関わり」を多く、かつ強く持っていることが明らかになった。たとえば、学校への訪問頻度は、全体の67.3%が月に1回以上だと回答している。授業参観には、84.1%、学芸会・学習発表会には74.0%、保護者会には80.4%が参加している。学校だよりには83.2%が毎号必ず目を通している様子である。

学校への関心事では、「わが子の友人関係」だと回答したものが最も多く、その数値は全体の61.1%である。ついで、「先生の指導全般」「わが子の成績」などの項目が続く。「保護者対応」(7.6%)などにはほとんど関心がないようである。学校に改善を望む事柄としては、「わが子の成績の向上」(53.5%)が最多で、他の項目を大きく引き離している。特に、中学生保護者の数値が高く、全体の64.6%に上る。関心事でも「成績」の数値が高いことは、今日の進学熱ないしは学力向上熱の高まりの影響であろう。しかし、関心事で数値の高かった「わが子の友人関係」(14.3%)は改善事項では下位2位となる。「友人関係」は関心はあるけれど、改善すべき問題はないということだと考えられる。

保護者による教育用語の認知度をみると、「全国学力・学習状況調査」が最も広く認知されている。ついで、「学習指導要領」「教育課程」などの認知度が高い。昨今、これらは新聞等で大きく報道されたことが影響していよう。反対に、最も理解されていなかった用語は、「校務分掌」(11.6%)である。「ALT」もまだ知られてないようである。わが校の実態把握では、すべての項目50%を上回り、「年間計画」では把握者が92.6%に達した。このほか、「担任の先生」や「学校施設」の実態度が高い。ただし、「よく把握している」という選択肢になると、回答値はずいぶん低下する。「年間予定」は、92.6%から19.7%へと5分の1近くまで減少していることから、他の項目についても実際の把握度は回答値よりも低いものと予測できるであろう。

苦情・要望に対する当否意識については、「クラス替え要求」を当然だと思う割合は、9.8%、「攻撃する子への指導」の同数値は93.0%、「親の言うことを聞かないわが子への指導要求」は14.6%、「わが子の写真が載っていない卒業アルバムの作り直し要求」は21.2%であった。「攻撃する子への指導」以外の要求には保護者の見方は厳しい傾向にある。そこで、実際に苦情・要望を申し立て保護者の割合をみると、冒頭に述べたように、21.6%であるが、そのうち「何度もある」保護者は1.7%に過ぎない。その内容を問うと、「先生の指導全般」が最多の23.0%である。「先生の指導全般」という項目は包括的な表現であることから数値が集中したとも考えられるが、その制約を考慮しても、この項目の数値が高い理由として考えられるのは、「なんとなく不満がある」あるいは「先生に関してはたくさん不満や問題がある」という声の表れだということである。

また、「アルバムの作り直し」要求など学校に無理難題とも言えるクレームを当然視する保護者には、学校訪問頻度が低いなど学校との関係世が希薄な者が相対的に多い傾向が見られた。その意味で、これらイチャモン系の保護者を少なくするためには、保護者の学校との関係性を強める工夫が求められると言えよう。たとえば、情報提供の仕方をもっと工夫したり、保護者に学校支援ボランティアとして参画してもらう機会を増やしたりすることが有効だと思われる。

最後に、保護者による苦情・要望を削減するための方策として、7項目(「その他」を除く)の中から択一してもらったところ、「先生と保護者が交流できる機会を設ける」が第一位の35.8%である。3人に1人が回答したことになる。保護者自身も保護者と学校との関係性の強化が苦情・要望を減少させる有力な方法だと捉えていることがわかる。第二位は、「学校による保護者への情報提供」(22.7%)であった。多くは、保護者が学校をよく理解すれば苦情・要望が減っていくと認識する傾向にある。反対に数値の低かったものには、「PTA活動を充実させる」(1.1%)、「教育委員会などが保護者に対する研修会を実施する」(3.8%)などの項目であった。この設問の保護者の回答結果は、本調査の仮説にそうものだと言える。

(佐藤 晴雄)