日本苦情白書Ⅱのご案内(関根眞一)
はじめに
ここに掲載させていただきましたものは、「新新新・学校保護者関係研究会」の委員として参加している「苦情・クレーム対応アドバイザー」の関根眞一が代表を務める社が10年ぶりに2刊目となる日本苦情白書Ⅱのご案内です。
研究会の代表小野田教授に許可を頂いて掲載させていただきました。
去る3月25日にメデュケーション㈱が発刊しました日本苦情白書Ⅱは、2009年の創刊時と同じ質問で回答を得て、比較ができることが最大のポイントです。
また、この10年苦情の変化もみてとれます。
質問は14問、2009年のアンケートは5,059名、今回は12,429名の回答分析です。
また、14問目は苦情を言う頻度を計りました。その結果全体では 0.1回増えていました。
教育を見ますと、大きな改善は成っていません。気づきながらも行動に結びつかない結果が目立ちます。
ご挨拶に続き、教育に関して解説書の中から抜粋したものを添付しておりますのでご覧ください。
日本苦情白書Ⅱの詳細
- ISBN 978-4-9904725-2-8
- 発売元 メデュケーション株式会社
お問い合わせ先
〒173-0016 東京都板橋区中板橋12-3-603
TEL:03-3579-6548 fax:03-6905-6433
https://claim-sos.ecgo.jp/
※ISBNを取得していますので、近在の書店からもご注文を頂けます。
※発売元へ直接ご注文の際は、注文書をお送りいたしますので返信を頂き発送になります。
日本苦情白書Ⅱ 発刊にあたってのご挨拶
当社は、2009年に日本で初の苦情分析集を発刊しました。それは、2007年度までに集計されたアンケートの分析でした。その後10年、2017年度までの分析を行い、ここに2019年度版として完成をみました。
今回の分析は、初回アンケート数5,059件に対し、約2.5倍の12,439件の分析です。
分析の中で「全体」という表現をしていますが、その件数はその総計ですから、17,498件となります。全体を示した理由は、同一人物が回答をしていないことから、総計の価値も有効であると考えたからです。
そして、今回一番大きな収穫は、比較対象の存在があったことで、全体と職域内での変化の詳細まで読みとることが出来ました。2009年対2019年版です。内容は、前回と同じ質問で、同じ職域、そして、性別と年代別を分析しています。
今回、分析を読み終えて一番驚いたことは、2009年に比較して、個人が苦情を言う機会は増えているのですが、受ける側はそれを感じていないことでした。
その実例、分析のQ1では、「近年、自分の職場で苦情が増えていると思いますか」の回答を、「思う」「思わない」「変わらない」「分からない」としています。その結果、2009年:2019年では、分析グラフのとおり増えていないことが明確に示されました。
これは、想定内です。メディアでは苦情を事件のように取り上げていますが、苦情は事件ではなく被害があるか否かなのです。また、それを相手に伝えるか否かが件数となります。百貨店時代、不景気なときは「苦情」は減るものだと気づいていましたから、今回の減少は妥当だと判断できます。
しかし、職域の中に「福祉」があり、ここだけは苦情が増加していますが、読者の皆様もメディアから得た情報で大変な境遇にある、そして、この10年でもっとも大きく変化していることはご理解していたことでしょう。
分析を読み解く中で、まだこの部分は脆弱であるということに気づくこともありました。また、苦情から職域を変えていけるのは、女性の力が大きいこともそこかしこに見られた現象です。これは女性の持つ強さと柔軟性の表れでしょう。しかし、女性特有の弱点も露呈しています。
対象職域は、「歯科」「病院」「金融」「企業」「流通」「教育」「行政」「福祉」となっています。
分析グラフからは、それぞれの職域の「性別」、「年代別」、「全体との比較」「前回との比較」そして、質問13個の回答を職域順位で読み取れます。
そして、質問14では、前回同様「苦情を言う頻度」を測定しました。それは、グラフでは「苦情発生率」でご覧いただけます。ここで変化がありました。頻度が、前回の4.63回から4.53回になっています。つまり、個人感覚では増えていることになります。
苦情を一番言う業界は、前回の「行政」から、前回、もっとも少なかった「金融」がトップになっています。原因は読者の推測にお任せしたいと思います。
今回新たに取り入れたグラフに、質問の回答の「性別割合比較」を示しました。分かり易い説明を加えると、質問の6では、「苦情で怒鳴られたとき、対応が変わりますか」があります。その回答の3番目に「怒鳴られて怯える」がありますが、そこでは、男性が33.6%に対し女性は66.4%と回答しています。女性は怒鳴られることに恐怖が先に立つようです。
政策にあたり、前回の重量感ある「日本苦情白書」から、今回は投影してご覧いただけるようUSBを使用して、企業内研修でも使えるものと致しました。
前回も書きましたが、自分の職域の実態を知ることは大切なことですが、受け身になった場合、相手の個人的な詳細が分かることは、対応の的を絞れることになり、苦情の対応処理を正確にする効果も生まれます。
どうか、ご覧いただき、分析を見て今後の苦情対応にお役立ていただけましたなら幸甚にございます。
【参考】アンケート項目及び掲載グラフ抜粋(PDFファイル)
【教育】
苦情対応に遅れのある教育界、前回のアンケートでも桁外れの異様な結果が出ていました。私も教育界に縁のある、独立法人・日本学術振興会の「学校保護者関係研究会」の一員として10年経ちました。その関係で「学校と苦情」の講演や教育界の連載記事、出版も行ってきましたが、現在に至ってもその対応の遅れ、というより、理解度の低さは直っていないように見えます。
そこにきて、保護者の連系は強くなり、さらに教師は苦しむことになっていますが、担任クラスの教師もそうですが、その幹部、上部管理者である教育委員会の理解も遅々として進まない現状と、その相談を受けても理解できない首長では、この先もまだ長いトンネルが続きそうです。全体の多くは気づきが遅れておりますが、県または市によって既に気づき本格的に対応を学び始めているところは、バランスの良い教師が育っています。
しかし、教師自身が関連した苦情では、教師は重症にならない場合もあります。それは、小学校なら6年、中高学校なら3年で解決を見ないまま、その関係者と話し合う機会が無くなる場合です。昨年(2018年)気づいたことがあります。実は教師自身も気づいていない可能性がありますが、その期限内で解決にこぎつけることが出来ず、そのことがトラウマになっている教師がたくさんいるということです。今回の分析を見て、何か気付くものがあると良い方向に向かっていくと思います。この五年ほどで講演は激増し、参加者数は前回の6倍強の数値を見ても、悩み多き学校教師がいるようです。
新聞等の記事によると、教師志望者が減っていて、県によっては全員を採用するところもあるそうです。それで、教師の質が保てれば良いのですが。また、継続して幹部希望者は減少を続けていますこれも、頭の痛い問題です。
★ここでは、13の質問の回答を「教育」の解説書の中から抜粋してお知らせします。
Q1
いきなり驚いた結果が現れました。前回苦情が増えたと答えた学校関係者は53.7%もいました。この高い数字ですから、減ることは予測していましたが、なんと46.3%と大幅に苦しみを取り去りました。しかし、男女比較でみると女性が順応性を存分に発揮していることが分かります。この数値一つとっても男性の頑固さはどの業態も共通のようです。
Q2
原因分析を見たときに、他職域との比較は、前回同様「配慮不足」に大きな差が出ています。しかし、前回と比較すると「配慮不足」が伸び、保護者児童側の「勘違い」が減っていることは、教師も気づきだしたようです。男性女性を見たときに、ここでも女性の柔軟性が明確に出ています。このアンケートから今後の保護者対応は女性中心に行うことが解決への近道とさえ感じます。反面、男性や幹部の悩みは続きそうです。
Q3
対応で困ることです。学校関係者は、「教育除」と比較して、苦情対応で知識不足でないと示しながらも、相手の「真意・心理」を読むことがとても苦手と示しています。
「説明を聞かない」は、全体と比較、また、男女を見ても増加しています。これは、教師でありながら、話の進め方が苦手なのでしょうか、それとも、慣れのない緊張からなのでしょうか。
Q4
苦情を言われたとき最初に考えることは何でしょう。全体と比較して、対応を見ると「面倒だ」が高く、苦情対応を嫌がっています。それが普通なのですが強すぎます。
年代別を見て感じることは、40代の前回が異常のようです。その結果、「面倒だ」が前回より大幅に増え、その圧縮で、「良い意見が聞ける」が非常に低くなっています。この年代は中堅であり、のちの幹部としては期待したいものです。
Q5
全体との比較では、若干不得意の傾向が出ています。得意も伸びています。
前回よりも「不得意」が比率を上げ、「得意」は下げています。これは、モンスターペアレントが第二ステージ(攻め方が変わった、「なぜあの保護者は土下座させたいのか」〈株・教育開発研究所〉参照)に移っていることへの対応の遅れではないでしょうか。
Q6
保護者や学校の近所の方に怒鳴られた時の反応です。全体と大きな差はありません。前回との比較を見ると、「怒鳴られた際の怯え」が増えています。
Q7
いらつくことが多いですか。全体と差異が少ないし、前回比較も同様な傾向が出ています。男女とも増加は微増ですが、女性側で大きく「少ない」の数値が上がっていることは、いらつくことが減っているということです。これは自分自身に良いことです。
Q8
苦情を言う機会が増えましたか。ここでは、全体比較、前回比較とも苦情を言う機会が減っていることを示しています。
Q9
年代別を見ると全年代で「いい加減な態度」を許せない比率が上がっています。どちらにしても、教育関係者は冷静であると言えるようです。
Q10
どの職域もそうです。「誠意」と「説明」で全体の大部分を占めていることは他の企業と同様です。
Q11
誠意とは何かを問いました。ここでは教育者らしさが現れています。それは「礼儀正しい」「言葉遣いがよい」というものに対し高評価をしています。
Q12
保護者から迫られる教師、受け手としてのコミュニケーションは必要ではないでしょうか。その結果を見ると全体との比較、前回とも大差はありません。「絶対」が伸びてくるとは思っていませんでしたが、あれだけ苦しむと何かにすがりたくなるでしょう。ただ、そこには指導者も少ないのが現状です。
Q13
言葉のボキャブラリーが大事だと思いますか。ここでは、少し矛盾を感じます。教師を対象として保護者のトラブルに対応するには「言葉」の重要性を感じて頂きたいのですが、既にそれは身についているのか、あるいはそれを感じるような境遇にはまったことがないのか、前回との比較は心配になります。
教師は指導者ですからプライドはあるでしょうが、苦情の対応はプロでないのですから、素直にボキャブラリーを身に着ける努力をすることが肝要かと思います。